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東京高等裁判所 平成7年(行コ)60号 判決

東京都豊島区池袋三丁目八番一三号

控訴人

乘金俊

右同所

控訴人

乘金弘子

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被控訴人

豊島税務署長 田村正義

右指定代理人

前澤功

信太勲

太田泰暢

石黒邦夫

江口庸祐

主文

一  控訴人両名の控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人両名の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人乘金俊(以下「控訴人俊」という。)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人俊に対してした原判決「事実」第一の一1の(一)ないし(三)(原判決二ページ末行の冒頭から四ページ三行目末尾まで)に記載の各処分を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴人乘金弘子(以下「控訴人弘子」という。)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成三年二月二七日付けで控訴人弘子に対してした昭和六二年分所得税の更生(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)のうち総所得金額一七三万九五〇〇円、還付金の額に相当する税額一二万七八五〇円を越える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

三  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、原判決「事実」中の「第二 当事者の主張」のとおりであるから、これをここに引用する。

第三証拠関係

原審及び当審における証拠関係目録を引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人両名の各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、以下のとおり付加するほかは、原判決の「理由」のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決五九ページ三行目の末尾の次に、行を改め次のとおり付加する。

「 控訴人俊は、前掲乙第四ないし第六号証(枝番号を含む。いずれも大和証券新宿支店における控訴人俊の株式注文伝票等)は、単なるメモ程度の不完全な書面であり、これでは委託者と受託者との株式売買に係る委託契約の内容が判然としない旨主張する。株式売買の回数を算定するに当たり、顧客名、発注日時、売り又は買いの別、現物取引又は信用取引の別、銘柄、株数、価格等当該株式売買を特定するに足りる事項が明らかにされなければならないが、右乙号証にはこれらの事項に関する記載があり、同号証及び関連証拠を併せ検討すれば、株式売買の委託者と受託者間の各委託契約を特定し、前記売買回数を算定するに十分である。したがって、控訴人俊の右主張は採用できない。」

2  原判決六一ページ一行目の末尾の次に、行を改め次のとおり付加する。

「 控訴人弘子は、昭和六二年度の売買回数につき、別表16のうち同表区分欄の各事項のすべてについて証拠のある四取引(同表売買回数欄55ないし58の分)を除き、これを証するに足りる証拠がない旨主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、控訴人俊と控訴人弘子は同居の夫婦であって、同一の場所で株式の信用及び現物売買を共同で継続的に行っていたことが認められ、この事実に前記1に認定した控訴人俊の株式売買取引の事実並びに前掲乙第一五号証の一ないし一七を併せ考えれば、前記のとおり認定することに誤りはない。そして、この点に関連する控訴人弘子の主張を検討しても、前記認定が不合理であるとする事情は見当たらない。したがって、控訴人弘子の右主張は採用できない。」

3  原判決六八ページ二行目末尾の次に、行を改め次のとおり付加する。

「 控訴人らは、本件各係争年分当時有価証券の売買の事業につき営業所を設置していたこと、同人が青色申告者として必要な帳簿を作成していたこと、信之(控訴人の長男)がパソコンによる投資情報の収集整理に当たっていたこと、控訴人弘子は株式投資資金の調達を行っていたこと、控訴人俊が株式投資暦四〇年のベテランであることなどから、本件株式の売買は控訴人ら一家の事業であり、これによる所得は雑所得ではなく事業所得である旨主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、控訴人らが有価証券売買につき営業所を設置して営業をしていたとする場所は、控訴人らの肩書住所地であり、かつ、控訴人弘子が経営していた東京海上火災保険株式会社の損害保険代理店であったことが認められるが、同所が本件有価証券売買の事業を営む独自の人的・物的設備を備えた施設であることを窺わせるような資料は全くないこと、控訴人らは、本件において単に控訴人弘子の有価証券売買に関し、「62年度・・・・・株」等と記載されたノートの表紙(甲第六号証)を提出するのみで、有価証券売買に関する帳簿類を作成していた形跡がないこと、そして控訴人両名及び信之が前記認定のとおりそれぞれ職業を有していたことの諸事実に控訴人らの行っていた株式売買の態様等を併せ考えると、本件株式の売買が控訴人らの事業であって、これによる所得は雑所得ではなく事業所得であるとすることは到底できない。したがって、控訴人らの右主張は採用することができない。」

二  そうすると、控訴人両名の各請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野寺規夫 裁判官 清野寛甫 裁判官 坂本慶一)

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